本稿は、2026年8月に報じられた米国防総省による「レアアースを使わない磁石」への約240億円規模の投資を、単なる最新速報としてではなく、54年におよぶ研究開発の経緯と、その後の検証・量産評価を踏まえた技術レビューとして整理する。EVモータ設計者にとっての本質は、磁石材料の代替ではなく、磁気回路・巻線・インバータを同時に再設計できるかどうかにある。
1. 対象論文・技術発表の核心
報道された投資対象は、NdFeBを前提とした既存モータを単純に置き換える材料ではなく、FePt、MnBi、FeCo系、フェライト系などの希土類非依存磁石を、防衛用途・産業用途で使える「設計可能な磁石」に引き上げる技術である。基礎研究は半世紀以上続いており、単体の高Co磁性材料は得られても、量産成形・焼結・粒界制御・熱処理・品質ばらつき管理がボトルネックとして残っている。
国防総省が賭けた理由は、最高効率そのものではなく、供給リスク・防衛産業の材料主権・既存NdFeB依存の脆弱性に対するヘッジである。
2. 磁気回路設計およびインバータ損失低減の数理
EVモータでNdFeBが使われる理由は、高残留磁束密度 Br と高保磁力 Hci の両立にある。希土類非依存磁石は、Brが低い場合、トルク密度が下がり、同じトルクを得るために電流を増やす必要がある。トルクは概ね
T = (3/2)p(λ_pm i_q + (L_d - L_q)i_d i_q)
で表される。永久磁石鎖交数 λ_pm が下がると、i_q 増加が必要となり、銅損 P_cu = 3RI² が増える。特に高速域では弱磁界制御が厳しくなり、d軸電流や高周波成分が増加する。
